
ずいぶん前ですが、「ミュータントの憂鬱」というタイトルで、自分の特殊な能力と、そのために被るちょっとした面倒について日記を書いたことがありました。すると、それを読んだとある友人に「あれはミュータントというより、単なる特異体質というのではないか?」と指摘されました。まあ、前回お話したレベルの超能力の場合は、特異体質と言われてもしかたがありませんが、だからといって私の抱える悩みを、単に体質の問題だと言われるのはちょっと悲しかったので、前回はあえて隠していましたが、私のもう一つの、そして本当の超能力について話そうと思い、久々に日記を更新することにしました。
さて皆さん、ミュータントと言われてまず思い浮かぶ能力といえば、「目からビーム」ではないでしょうか。目からビーム、憧れますよね。誰しも、一度や二度は想像上のビームを目から飛ばして、遥か上空の飛行機を狙い撃ちしたり、ビルを破壊したりした経験があるはずです。私もでした。あの夏までは……。
私がその能力に目覚めたのは、実はけっこう遅くて、高校2年生の時でした。1学期の期末試験の勉強を夜遅くまでしていたところ、道路工事のミスか何かが原因で、近所一帯が停電になってしまったのです。試験はもうすぐなのに、まだ全然勉強が終わっていない……当時、そして今も直前詰め込み型の私は、たいへん困ったのを覚えています。とはいえ電気がなくてはノートや教科書を読むことはできません。私は恨めしい気分でちょうど机の上のノートを置いていた辺りをニラんでいたのです。すると驚いたことに、私が見つめていたノートの一部が少し明るいのです。不思議に思い目を細めると、その光はさらに明るさを増します。しばらくその光を見つめていた私は、なんとその光が自分の目から出ていることに気がついたのでした。そして、うまく言葉では説明できないのですが、眼球の中心あたりに力を込めるようにすることで、その光を出したり止めたり、強めたり弱めたりできることがわかったのです。
その日以来私は、人知れず目から出るレーザービームを自在に操れるようになるためのトレーニングを始めました。なんといっても憧れの目からビームです。手で甘いとかしょっぱいとか、そんなもんではありません。「ついに私は本格的な超能力に目覚めたのだ」私はそう思いました。「やはり私は選ばれし民だったのだ。きっと何かの使命があるに違いない。たとえそれが厳しくつらい戦いであっても、私はこの運命を受け入れ、まだ見ぬ敵と全力で戦おう」そう誓ったものでした。そして私は、家族が寝静まった時間をみはからっては、夢中で練習を重ねました。毎日のつらいトレーニングの末(目からビームを出すと、とても疲れるのです)、高校を卒業する頃には、私はビームを自在に操れるまでに自身の能力を向上させました。
……しかし私の目からビームは、一つだけSFに登場する目からビームキャラたちと違うことがありました。それは私の目から出るビームの限界が、いくらがんばっても1mWほどで、それ以上強くならなかったことです。ちなみに1mWというのは、プレゼンテーションとかに使う市販のレーザーポインタレベルです。確かに、1mWでも目からビームが出ることに変わりはありません。でも、どうでしょう、こんなしょぼいビームでは、人類の敵的なものや暗黒面に落ちたミュータントを倒して、かわいいあの娘を守ることなんてできそうにありません。まぁせいぜいネコを驚かせるくらいです。
一時期などこんなこともありました。トレーニングの過程で、なぜか前日に食物繊維の多いものをたくさん食べるとビームの出が良くなることにも気がついた私は、レーザーの限界を少しでも上げようと、スーパーでコンニャクやごぼうなど食物繊維の多いものを買って、母に夕食に出してもらうよう頼みました。すると母は「どうしたの、出ないのか?」と聞いてきたのです。私はたいへん驚きました。ああ、母は気がついていたのか……いやもしや母もミュータントなのではないか? 私の能力は遺伝で、私の家系は代々このような能力を持っている一族なのではないか? 困惑した私は、しかし「全然出ないわけじゃないが思ったほど出ない」と正直に答えました。それを聞いた母は無言で台所に向かうと、大量のきんぴら作りはじめたのでした。そして夕食後に母は「それでもダメならこれを使いなさい」と、ピンク色の小さな錠剤を手渡したのです。これはもしや、私たちのような超能力者を支援する特別な組織が作っている薬なのか? 私は思わず母にたずねました「この薬はいったい……」。すると母は「コーラック」と答えたのでした。
そんな苦い経験をふまえつつ、成人するころには私は自分の能力の限界というものを悟りました。そして、自分が選民でも何かの使命をおっている訳でもないことも、認められるようになりました。そしてそれ以来、この目からビームを封印して暮らしています。では私の高校時代のつらく苦しいトレーニングは無駄だったのでしょうか? 実は私の仲間の一人にも同じように、「手から電撃」といういかにもな能力を持つやつがいますが、彼は若い頃に能力をコントロールするトレーニングを熱心にしなかったため、ときどき意図せず電撃を飛ばしてしまい、周囲からは「ものすごく静電気体質の人」と言われています。その話を聞くと、少なくとも高校生の頃、必死でこの能力をコントロールする方法を身につけたことは無駄でもなかったな……とも思うのです。
あとついでにもう一人、若い頃に知り合ったミュータントの仲間に、触れた物質を任意の場所に瞬間移動させることができるという、テレキネシスな女性がいました。ただ、彼女の能力が発動されるのは彼女の胃壁のためあまり実用性がないと、見た目はギャルっぽいのですが、たいへんまじめで努力家の彼女は、当時とても悩んでいるようでした。それから数年後、彼女が大食いの女王としてテレビなどで活躍しだしたこを、私は心底うれしく思っています。では。