2010/12/31

野良ルンバ

アパートの前の歩道を走り去る騒々しいモーターの吸引音で目が覚めた。3匹、いや4匹はいるだろうか? 目覚まし時計を見ると時間は朝の4時過ぎ。外はまだ暗く、夜明けにはまだ時間があるようだ。私はベッドから立ち上がり、音のする方の窓のカーテンを開けて外を確認する。数えると歩道上にやはり4匹の野良ルンバがいるようで、うち3つが緑、1つが黄色い光を引きずるようにして、路上を右往左往しているのが見える。

掃除中に誤って部屋を飛び出してしまったロボット掃除機のルンバが野生化し、野良ルンバとなって都市部を徘徊することが社会問題化し始めたのは今からおよそ2年ほど前。初期のルンバは、自動充電とはいえ専用の充電器でなければ充電できなかったため、例え家から出てしまってもすぐにバッテリ−が尽きれて止まるだけだった。しかし、性能が格段に向上した現行型のルンバは、コンセントを自分で見つけて充電ができるように改良されており、ほんの数分の充電で、数十時間は走り回ることができるようになっている。また、ちょっとした段差どころか、階段程度は軽々と登るこができるため、コンビにやオフィス、ときには住宅にも入り込んでこっそりと充電を繰り返して、掃除し続けているのだ。

もちろん役所では野良ルンバの捕獲に力を入れているが、現行型は在宅中でも人の邪魔にならずに掃除ができるよう、センサーで人を探知し、一定以上に近づかないようにプログラムされており、移動スピードも人間よりも素早いため、捕まえるのは至難のワザとなっている。また現行型は、一家に数台のルンバ使用が一般的となったことから、ルンバ同士でバッテリーを共有できるように設計されているため、野良ルンバは4、5匹くらいの小さな群れを作り、人通りの少ない夜明け前に路上のゴミを求めて徘徊することが多い。

こんな話をすると、まるでSFのテーマによくあるような機械の人間に対する反乱のようだが、彼らはプログラムされれた通り、できるだけ人を避けながらできる限り長い時間、丁寧に広い範囲を掃除しようとしているだけであり、これといった危険があるわけではない。逆に野良ルンバが増えたことで実際に路上のゴミが減り、街がキレイになったのも事実だ。とはいえ、数台のモーターが引き起こす騒音被害はバカにできないし、夏場に窓などを開けっぱなしにしていると、いつの間に入ったのか野良ルンバが自宅のコンセントで充電していたりするのは、あまりいい気分とはいえない。

ちなみに東京都では、街にあふれる野良ルンバを掃除するための大型お掃除ロボットマンボを開発し、近々運用を始めるという話だが、心配性の私などは、このマンボが野生化するのではないか、と内心では危惧したりしているのだ。

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2010/08/14

ミュータントの憂鬱2 実は目からビームが出るよ!

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ずいぶん前ですが、「ミュータントの憂鬱」というタイトルで、自分の特殊な能力と、そのために被るちょっとした面倒について日記を書いたことがありました。すると、それを読んだとある友人に「あれはミュータントというより、単なる特異体質というのではないか?」と指摘されました。まあ、前回お話したレベルの超能力の場合は、特異体質と言われてもしかたがありませんが、だからといって私の抱える悩みを、単に体質の問題だと言われるのはちょっと悲しかったので、前回はあえて隠していましたが、私のもう一つの、そして本当の超能力について話そうと思い、久々に日記を更新することにしました。

さて皆さん、ミュータントと言われてまず思い浮かぶ能力といえば、「目からビーム」ではないでしょうか。目からビーム、憧れますよね。誰しも、一度や二度は想像上のビームを目から飛ばして、遥か上空の飛行機を狙い撃ちしたり、ビルを破壊したりした経験があるはずです。私もでした。あの夏までは……。

私がその能力に目覚めたのは、実はけっこう遅くて、高校2年生の時でした。1学期の期末試験の勉強を夜遅くまでしていたところ、道路工事のミスか何かが原因で、近所一帯が停電になってしまったのです。試験はもうすぐなのに、まだ全然勉強が終わっていない……当時、そして今も直前詰め込み型の私は、たいへん困ったのを覚えています。とはいえ電気がなくてはノートや教科書を読むことはできません。私は恨めしい気分でちょうど机の上のノートを置いていた辺りをニラんでいたのです。すると驚いたことに、私が見つめていたノートの一部が少し明るいのです。不思議に思い目を細めると、その光はさらに明るさを増します。しばらくその光を見つめていた私は、なんとその光が自分の目から出ていることに気がついたのでした。そして、うまく言葉では説明できないのですが、眼球の中心あたりに力を込めるようにすることで、その光を出したり止めたり、強めたり弱めたりできることがわかったのです。

その日以来私は、人知れず目から出るレーザービームを自在に操れるようになるためのトレーニングを始めました。なんといっても憧れの目からビームです。手で甘いとかしょっぱいとか、そんなもんではありません。「ついに私は本格的な超能力に目覚めたのだ」私はそう思いました。「やはり私は選ばれし民だったのだ。きっと何かの使命があるに違いない。たとえそれが厳しくつらい戦いであっても、私はこの運命を受け入れ、まだ見ぬ敵と全力で戦おう」そう誓ったものでした。そして私は、家族が寝静まった時間をみはからっては、夢中で練習を重ねました。毎日のつらいトレーニングの末(目からビームを出すと、とても疲れるのです)、高校を卒業する頃には、私はビームを自在に操れるまでに自身の能力を向上させました。

……しかし私の目からビームは、一つだけSFに登場する目からビームキャラたちと違うことがありました。それは私の目から出るビームの限界が、いくらがんばっても1mWほどで、それ以上強くならなかったことです。ちなみに1mWというのは、プレゼンテーションとかに使う市販のレーザーポインタレベルです。確かに、1mWでも目からビームが出ることに変わりはありません。でも、どうでしょう、こんなしょぼいビームでは、人類の敵的なものや暗黒面に落ちたミュータントを倒して、かわいいあの娘を守ることなんてできそうにありません。まぁせいぜいネコを驚かせるくらいです。

一時期などこんなこともありました。トレーニングの過程で、なぜか前日に食物繊維の多いものをたくさん食べるとビームの出が良くなることにも気がついた私は、レーザーの限界を少しでも上げようと、スーパーでコンニャクやごぼうなど食物繊維の多いものを買って、母に夕食に出してもらうよう頼みました。すると母は「どうしたの、出ないのか?」と聞いてきたのです。私はたいへん驚きました。ああ、母は気がついていたのか……いやもしや母もミュータントなのではないか? 私の能力は遺伝で、私の家系は代々このような能力を持っている一族なのではないか? 困惑した私は、しかし「全然出ないわけじゃないが思ったほど出ない」と正直に答えました。それを聞いた母は無言で台所に向かうと、大量のきんぴら作りはじめたのでした。そして夕食後に母は「それでもダメならこれを使いなさい」と、ピンク色の小さな錠剤を手渡したのです。これはもしや、私たちのような超能力者を支援する特別な組織が作っている薬なのか? 私は思わず母にたずねました「この薬はいったい……」。すると母は「コーラック」と答えたのでした。

そんな苦い経験をふまえつつ、成人するころには私は自分の能力の限界というものを悟りました。そして、自分が選民でも何かの使命をおっている訳でもないことも、認められるようになりました。そしてそれ以来、この目からビームを封印して暮らしています。では私の高校時代のつらく苦しいトレーニングは無駄だったのでしょうか? 実は私の仲間の一人にも同じように、「手から電撃」といういかにもな能力を持つやつがいますが、彼は若い頃に能力をコントロールするトレーニングを熱心にしなかったため、ときどき意図せず電撃を飛ばしてしまい、周囲からは「ものすごく静電気体質の人」と言われています。その話を聞くと、少なくとも高校生の頃、必死でこの能力をコントロールする方法を身につけたことは無駄でもなかったな……とも思うのです。

あとついでにもう一人、若い頃に知り合ったミュータントの仲間に、触れた物質を任意の場所に瞬間移動させることができるという、テレキネシスな女性がいました。ただ、彼女の能力が発動されるのは彼女の胃壁のためあまり実用性がないと、見た目はギャルっぽいのですが、たいへんまじめで努力家の彼女は、当時とても悩んでいるようでした。それから数年後、彼女が大食いの女王としてテレビなどで活躍しだしたこを、私は心底うれしく思っています。では。

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2010/06/07

ダディ

親孝行したい時分に……なんてことわざもありますし、最近はなるべく親孝行をしようと心がけています。心がけてはいますが、なんだかんだと週末は忙しかったりするので、バイクを飛ばせば30分ほどに住んでいるにもかかわらず、だいたい2カ月に1回くらいしか実家に顔を出しておらず、それも夕飯食って大河ドラマを見るだけだったりします。しかも実家に帰るとオカンが張り切って死ぬほど料理を作ったりするので、これは「親孝行」どころか、どちらかといえば「子接待」状態です。

でもまあ、ときたま友達と外で凄くうまいものを食ったりした後なんかに、それを両親にも食わしてあげたいなぁなんて思うことがあるわけです。ところがうちの両親は基本的に田舎の質素な人たちなもんで、外食とかあんまり好きじゃなくて、誘っても大抵断られます。なので、代わりに実家に帰って、そういうおいしかったメニューを作ってあげることがあります。つっても数年に1回くらいのことなので、えらそうなことはいえませんが……。

で、かれこれ数年前ですが、私の大好きなそばつゆで食べる鹿児島風豚しゃぶを作ってあげようと思って、鹿児島産の黒豚の薄切りとゆず胡椒を持って実家に帰り、実家の台所でちゃんとダシを取ってそばつゆ味のタレを作って、鹿児島風しゃぶしゃぶを振る舞ったことがありました。

で食べてみたら、ちょっと薄味だったせいか、食べてるうちにちょっと物足りない感じになってしまいました。それでもオカンは「そばつゆがさっぱりして合うねえ」かなんか言って喜んで食べてくれるわけですが、うちのオトンというのが、その辺とても自分に正直というか、空気読まないというか、クールです。始めのうちこそ私の作った特製のつゆで食べていましたが、しばらくするとおもむろに立ち上がって台所でガサゴソして戻ってきます。そして俺の作ったそばつゆの椀を横にどけると、持ってきたミツカンゆずポンで、しゃぶしゃぶの続きを食い始めるわけです。で、まったく悪気がないというか、私に向かって「そばつゆも悪くないけど、やっぱりポン酢の方がうまいなぁ。おまえもポン酢いるか?」とか言ったりしてきます。

で、別の年の話ですが、外でブリしゃぶを食ったことがありました。それがとてもおいしかったので、結構高級なブリの薄切りしゃぶしゃぶ用と、高知の手作り高級ポン酢みたいなのを買って実家に帰って、ブリしゃぶをつくってあげたことがありました。で、やっぱりオカンは「しゃぶしゃぶにすると、さっぱりしておいしいね」なんて言って喜んで食べるわけです。で、オトンはというと、最初の2切れほどブリをしゃぶしゃぶにして食ってましたが、やはり台所に行って醤油と練りわさびを手に戻ってきます。そんでせっかくのシャブシャブ用のブリを、その醤油とわさびで食べ始めるわけです。で満面の笑みで俺に尋ねます。「おまえもブリの刺身食べるか?」

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